自由の学風にふさわしい京大総長を求める会

私たち「自由の学風にふさわしい京大総長を求める会」の発した公開質問状への回答を掲載しています。

(回答者別)寶馨氏の回答

質問1:学生との対話のチャネル

過去6年にわたる山極現総長及び執行部の運営に一定の敬意を払いつつも、ご指摘のとおり、教職員や学生との対話が少なくなったのは否めない事実だと思います。この点に関し、大胆な転換が必要です。私は「所信」のなかで、京都大学が世界に開かれた大学として、性、国籍、民族、宗教の違い、障がいの有無に関わらず、すべての構成員にとって多様性が尊重され、生活しやすい環境になるように努めたいと書きました。そのためにも、学生はもちろん、学内の教職員、学外の市民との対話や合意形成を積極的に行います。その一環として、学生との定期的な対話のチャネルを復活させ、信頼関係を築いていくことは、大学として当然であると考えます。

質問2:吉⽥寮裁判

吉田寮裁判は、不幸なことに、京都大学における近年の「変化」を象徴する出来事となってしまいました。本裁判によって、告訴の対象とされた方々はもちろん、多くの学生とその家族・関係者、教職員が不安な気持ちを抱かれたことと思います。学内外の信頼を取り戻すためにも、まずは大学が学生を告訴しているという状態を一刻も早く解消し、あらためて当事者との対話を再開する必要があります。そして、これまで様々な形で吉田寮の課題に尽力されてきた学生・教職員の対話の蓄積をふまえて、できるだけ速やかな解決を図りたいと考えています。

質問3:⽴看板問題

学部時代から京都大学で過ごしてきた身とすれば、立看板のない風景には、綺麗になった印象はあるものの、一抹の寂しさを覚えます。一方で、本問題は、京都市側との再交渉や学内規程との兼ね合いもあるため、容易に解決しない問題であると捉えています。まずは京都市側との再交渉を求めるなかで、双方の妥協点を見い出しつつ、より現実的な範囲で「京都大学立看板規程」の改正に向けて努力していきたいと思います。その際に、学生、教職員、京都大学職員組合、市民の方々との対話を踏まえて、あるべき立看文化の存続について検討していきたいと考えています。

質問4:学⽣処分

対話を重んじ、話し合いによって問題の解決を図るという基本方針に立てば、暴力的行為はその対極にあるものとして厳しく諫められなければなりません。しかしながら、厳罰が同様の事案の再発を抑止するという過度に懲罰主義的な対応は、学問の府としての大学においてふさわしいものとは言えないと考えます。また、一般論として、学生の教育に直接の当事者として関わっている部局で審議された懲戒処分案は、学部自治の観点からも尊重されるべきではないかと考えます。

ご指摘の事案では、部局(研究所等は除く)の長全員が参加する学生懲戒委員会(議長は総長)が導いた結論と、当該学生の所属する部局の結論が食い違った結果、2度のやりとりを経て最終的に処分案が決定されたものです。学生懲戒委員会は、それに先立つ補導会議(議長は厚生補導担当の副学長、総長はオブザーバーとして出席)において時間をかけて詳しく審議された内容と、過去の処分事例をも勘案して結論します。結果的に、学生懲戒委員会の処分の量定案と、部局の処分の量定案との間で大きな乖離があったわけではありませんでした。

部局、補導会議、学生懲戒委員会それぞれにおいて慎重に審議を重ねるこのような学生処分の進め方や、最終的な決定に至るまでに要する時間の長さなどについて、改善の余地があるとすれば、今後検討を重ねていく必要があると考えます。

質問5:修学⽀援問題

現時点の本学の財政状況では、修学支援対象となる学生に一定の厚生的条件が課されていることはやむを得ないと考えますが、その条件が、有為の学生が教育を受ける機会を奪われることのないように、できるだけ広く支援をする必要があります。「実務経験のある教員」や「産業界等」出身理事の受け入れを条件とすることは、大学の自治が損なわれる可能性もあり、修学支援とは切り離すべきだと考えます。修学支援をめぐる政府・文科省の方針に対しては、最近の新型コロナウイルスの流行に際しての留学生に対する支援の条件化に山極現総長が反対の意思表示をされたように、是々非々の立場で意見の表明と交渉を行い、京都大学のみならず我が国の学生が等しく教育を受ける権利を行使できるように声をあげていきたいと考えます。

質問6:いまの京都⼤学に必要なもの

一言で言えば、「風」が必要です。現執行部のもとでも、「自由」は謳われてきました。しかし、「風」の方はどうでしょうか。京都大学の「自由の学風」は、「風」であることによって真価を発揮すると考えます。近年、この「風」が弱くなり、かつての“京大らしさ”が失われつつあります。私は、「自由の学風」を学内の隅々まで行き届かせて、風通しのよい京都大学を実現したいと考えています。そのための不可欠な方法が「対話」です。対話のない場所で優れた教育・研究・医療は生まれません。対話を通して様々な立場の方々と理解し合うことは、自己と他者の自由や多様性を尊重し、「自由の学風」をより強くすることにつながります。しかし、私一人では対話もできなければ、新たな「風」を起こすこともできません。ぜひ皆さまのご協力・ご支援を得て、“京大らしさ”を取り戻し、世界に貢献できる進取の京都大学を実現していきたいと考えています。