自由の学風にふさわしい京大総長を求める会

私たち「自由の学風にふさわしい京大総長を求める会」の発した公開質問状への回答を掲載しています。

京大総長選考の意向投票を前に有権者の皆さんへ

自由の学風にふさわしい京大総長を求める会

 

 7月3日に第一次選考候補者6名が決定し、所信表明とビデオメッセージが発表されました。また、自由の学風にふさわしい京大総長を求める会(以下、求める会)、京都大学職員組合(以下、職組)等から各候補者に公開質問状が発せられ、それに対する回答も寄せられました。各候補者の大学運営に対する考え方が明らかになりつつあります。
 求める会は、総長選考を前に「理想の総長像」を発表しました。その内容は「「自由の学風」を堅持する」「対話に基づいて問題解決をはかる」「多様な意見を尊重する」「研究を広く深く耕し、未来に向けて発信する」「権利と雇用、安心した生活を保障する」「平和の実現に貢献する」「地域社会とともに大学文化を守り育てる」です。では、第一次選考候補者が「理想の総長像」にどれほど近く、また遠いのかを考えてみたいと思います。

 

 各候補者の略歴を見ると、山極現体制の運営に執行部として関わった人々(湊氏はプロボスト・理事、北野氏は現理事、村中氏は前副学長)とそうでない人々(時任氏、大嶋氏)、宇治地区の研究所代表として6ヶ月間副理事を務めた寶氏に分かれます。現体制を構成したグループは大学運営の経験が豊富ですが、その分、湊氏、北野氏は他候補よりも年齢が高くなっています。また、現体制に関わってきた以上、これまでの運営方針と所信の内容との整合性をどのように考えるかは検討すべき項目でしょう。

 

 「所信表明」や公開質問状への回答を見ると、多くの候補者が京大の伝統である「自由の学風」に基づいた運営や、教育・研究・国際化の充実を訴えていて、この点では大きな違いはありません。
 しかし、山極現体制のもとで、吉田寮裁判や立て看板の撤去など、これまでになく「自由の学風」が危機に瀕していることはご存知の通りです。求める会はこの点を深く憂慮しており、各候補者がこれらの問題を実際どのように認識し、改善に取り組もうとしているのかが重要だと考えます。
 そこで、求める会としては、質問1で学生との対話、質問2で吉田寮裁判、質問3で立て看板、質問4で学生処分、質問5で修学支援、質問6で京大に必要なものにつき各候補者に尋ねました。大嶋氏、寶氏、時任氏からは回答がありましたが、山極現体制を担ってきた3氏からは残念ながらこれまでのところ回答がありません。そのことは、教職員、学生との対話を拒否する現体制の姿勢を象徴するものと評さざるをえません。

 質問1の学生との対話について大嶋氏は対話の必要を認めながらも、『キャンパスライフ』の配信や意見箱設置によって学生との対話は保たれているという見解を示しています。これに対して、寶氏は「学生との定期的な対話のチャネルを復活」させるべきと記し、時任氏は「平和な雰囲気での情報公開連絡ができる環境や仕組みを再構築」すべきと論じています。
 質問2の吉田寮裁判について、時任氏は情報がないとしてコメントを控えています。大嶋氏は学生を訴えたことは「衝撃」であったとしながら「速やかな解消」のために裁判についても議論すべきと記しています。ただし、清掃・点検のための現棟立ち入りが「寮生の安全性の確保にならない」など現執行部と同様の認識を示しています。寶氏もまた「告訴」の解消を示唆し、「吉田寮の課題に尽力されてきた学生・教職員の対話の蓄積」をふまえた解決を図るべきという論点を提示しています。
 質問3の立て看板問題については現状からの転換を明確に訴えた候補者はありませんが、時任氏は現状の学内規程の下で不都合な点を解消すべきと論じています。寶氏は京都市側とも再交渉しつつ、現実的な範囲で学内規程の改正に向けて努力したいとしています。大嶋氏は「大学が京都市の中に作り出す景観とはなにか」ということも含めて議論すべきと述べています。
 質問4の学生処分については、大嶋氏と時任氏が停学(無期)処分はやむをえなかったという認識を示しています。寶氏は「過度に懲罰主義的な対応」への疑問を提示し、学部自治の観点から学部の判断を尊重すべきとしていますが、有期停学と無期停学の量定案に大きな乖離があったわけではないという認識も示しています。
 質問5では、政府が設定した修学支援要件(実務教員、産業界からの外部理事採用)に大嶋氏、寶氏、時任氏ともに疑問を呈し、大嶋氏は「政府や文科省に物申す必要がある」、寶氏は「是々非々の立場で意見の表明と交渉」を行う、時任氏は「政府施策に迎合する形にとらわれないことが重要」と記しています。なお、寶氏は学生の成績や出席率をも修学支援のための「厚生的条件」とみなすことは「やむをえない」としています。

 

 「自由の学風にふさわしい総長」は誰かを総合的に判断するためには、各候補者の所信表明や職組の公開質問状への回答もふまえて、以上の3氏の回答を未回答の3氏の見解と対比することが必要です。
 未回答の3氏の所信表明に照らして寶、時任、大嶋の各氏に共通しているのは、昨今の京大の変化を受けて現状からの転換を訴えていることです。寶氏は「大胆な転換」が必要と述べ(求める会質問1)、時任氏は「京大再起動」と書いています(所信表明)。大嶋氏は2人ほど強い言葉を用いていませんが、現状が「外部から押し付けられたものに従わざるを得ない状況」(求める会質問6)にあるとの認識を明らかにしています。つまり、3氏とも、文科省など外部からの圧力に対する違和感とともに、現状からの変化の必要を綴っています。
 寶、時任、大嶋各氏の方針が、湊、北野、村中各氏の方針と明確に異なる点は、「対話」を掲げていることです。寶氏は、多様性と対話と合意形成が重要だと述べて、具体的には定期的な記者会見と若手教職員や学生との対話を掲げています(所信表明、求める会質問1・6)。大嶋氏も対話を基本とした運営体制を掲げて、部局長、事務職員、学生との直接の対話を掲げています(所信表明)。時任氏も構成員との真摯な対話が必要と述べるので(所信表明)、その重要性を認識しておられるようです。
 他方で、湊氏と村中氏は組織問題について気になる発言をしています。湊氏は自己目的化しない組織改革(所信表明)、村中氏は大学運営の効率化が必要と述べています(所信表明)。村中氏は部局自治も掲げていますが、他方で大学本部機能の強化を論じています。よって、二人とも、「対話」を他候補ほどは重視していないと評さざるをえません。従来以上に強力なトップダウンで組織改革を実施していくことが予想されます。つまり、トップダウンで強力に組織改革を推し進める大学運営のあり方と、大学内外の対話に基づいたボトムアップ式で進める大学運営のあり方の好対照が生まれています。時任氏と寶氏は吉田寮自治会からの公開質問状、大嶋氏と寶氏は「学問と植民地主義について考える会」からの公開質問状にも回答しているのに対して、湊氏と村中氏はこれらの公開質問状には回答せず、北野氏にいたっては職組からの公開質問状を含めて一切、回答していません。

 

 以上から考えると、今回の総長選挙は、どの候補を選ぶかという個別具体的な問題であるだけではなく、政府・文科省が推し進めている、トップダウン式で、強力なガバナンスのもとで大学運営を目指すのか、ボトムアップ式で、各組織・学問分野の自律性や自由を尊重し「対話」しながら意思決定を積み上げる大学運営を目指すのかを選択する問題でもあると言えます。京都大学の理念や伝統に立つのであれば、今一度後者に立ち戻りながら、日本の大学の未来を描いていく必要があると思います。
 投票する資格のある教職員は構成員のごく一部に限られていますが、学生の立ち上げたサイト「京大総長選学生情報局」ではバーチャル「意向投票」として学生・市民を含めて様々な立場からの意見を集めています(https://sites.google.com/view/ku-sochosen-gakusei-johokyoku/)。投票権のある者は、こうした学内外の声も受けとめながら、京都大学の未来を形作るための一票を投じる責務があります。

(質問別)質問6:いまの京都⼤学に必要なものへの回答

質問6:いまの京都⼤学に必要なもの

いまの京都⼤学に最も必要なものを⼀⾔で表すと何でしょうか。その理由とそれを得る ための⽅策もあわせてお聞かせください。

総長候補者の回答(50音順)

〇大嶋正裕氏の回答

京都大学に入学したとき、あるいは京都大学で働き始めたときに思い描いていた大学の未来と何か違う、昔に比べて文科省等の外部から押し付けられたものに従わざるを得ない状況が続いているからだと考えます。昔はよかったと嘆いていても仕方ありません。今の状況を鑑みて、理想を目指して最善を目指し、前に進まないといけないと考えます。何もしないのは退化です。退化でも単なる変化でもなく、進化しないといけないと思います。
大学の進化は、皆の協力が必要です。そのためには対話と理解が必要だと考えます。

〇北野正雄氏

(回答なし)

〇寶馨氏の回答

一言で言えば、「風」が必要です。現執行部のもとでも、「自由」は謳われてきました。しかし、「風」の方はどうでしょうか。京都大学の「自由の学風」は、「風」であることによって真価を発揮すると考えます。近年、この「風」が弱くなり、かつての“京大らしさ”が失われつつあります。私は、「自由の学風」を学内の隅々まで行き届かせて、風通しのよい京都大学を実現したいと考えています。そのための不可欠な方法が「対話」です。対話のない場所で優れた教育・研究・医療は生まれません。対話を通して様々な立場の方々と理解し合うことは、自己と他者の自由や多様性を尊重し、「自由の学風」をより強くすることにつながります。しかし、私一人では対話もできなければ、新たな「風」を起こすこともできません。ぜひ皆さまのご協力・ご支援を得て、“京大らしさ”を取り戻し、世界に貢献できる進取の京都大学を実現していきたいと考えています。

〇時任宣博氏の回答

京都大学は、国内外に誇る総合研究大学として発展しており、その先進性、独創性は、世界的に卓越した知の創造と行動力豊かな有為な人材の輩出につながっています。そして、自由の学風に基づく京都大学独特の雰囲気が、学生、教職員を問わず構成員各自の日々の活動の源になっていると思います。しかし、国立大学法人化後に直面した大学改革、機能強化等の各種政府施策への対応は、ともすれば大学を構成する各部局、教職員、学生の活動を委縮させる状況を生み出し、本学が理想とする大学運営に少なからず負の影響を与えてきたと言わざるを得ません。私は、教職員、学生の皆さんが、本学の一員であることに誇りと自信をもって、その独創性に富んだ活力を最大限発揮できる研究教育環境を整えるべきだと考えています。その結果、多様な学術分野を包含する京都大学が、各部局の特色に配慮しつつ多分野共同体としての教育研究活動を国内外にアピールすることで、世界に冠たる総合大学としてさらに大きく飛躍することができると考えています。

〇湊長博氏

(回答なし)

 〇村中孝史氏

(回答なし)

(質問別)質問5:修学支援問題への回答

質問5:修学支援問題

2020年4⽉施⾏の「⼤学等における修学の⽀援に関する法律」は、修学⽀援の対象を年 収380万円未満の世帯に限定した上で、在学⽣(⼤学2〜4年⽣)の採⽤者に対しては「GPA (平均成績)等が上位1/2以上であること」「修得単位数が標準単位数以上であること」な どの条件を課しています。また、⽀援対象の学⽣が所属する⼤学等の機関に対しては、「実 務経験のある教員による授業科⽬が標準単位数の1割以上、配置されていること」「法⼈の 「理事」に産業界等の外部⼈材を複数任命していること」といった要件を課しました。現 時点では京都⼤学は要件を満たしているとされていますが、今後さらに要件が厳しくされ ることも考えられます。 修学⽀援をめぐる政府・⽂部科学省の⽅針に対して、京都⼤学としてどのような⽅針で 対応を進めるべきだとお考えですか?

総長候補者の回答(50音順)

〇大嶋正裕氏の回答

この条件を聞いたとき、修学支援の条件に、なぜ実務経験のある教員の条件ならびに、理事の条件が入るのかが理解できなかった記憶があります。今後、修学支援の条件として、ふさわしくないものが加わった場合について、国大協や国立大学の各種の集まりで議論し、政府や文科省に物申す必要があると思います。一方で、大学としては、一部取り組みは始まっていますが、政府からの財源だけに頼らず、困窮する学生にしっかりと修学支援していくさまざまなプログラムを作り運用していくべきと考えます。

〇北野正雄氏

(回答なし)

〇寶馨氏の回答

現時点の本学の財政状況では、修学支援対象となる学生に一定の厚生的条件が課されていることはやむを得ないと考えますが、その条件が、有為の学生が教育を受ける機会を奪われることのないように、できるだけ広く支援をする必要があります。「実務経験のある教員」や「産業界等」出身理事の受け入れを条件とすることは、大学の自治が損なわれる可能性もあり、修学支援とは切り離すべきだと考えます。修学支援をめぐる政府・文科省の方針に対しては、最近の新型コロナウイルスの流行に際しての留学生に対する支援の条件化に山極現総長が反対の意思表示をされたように、是々非々の立場で意見の表明と交渉を行い、京都大学のみならず我が国の学生が等しく教育を受ける権利を行使できるように声をあげていきたいと考えます。

〇時任宣博氏の回答

大学における修学支援の仕組みが、政府・文部科学省の施策として大きく変革される可能性がありますが、本学での支援制度設計は、現状で真に支援を必要としている学生に適切に対応できるように配慮されるべきであり、政府施策に迎合する形にとらわれないことが重要と思います。また、各種の奨学金や授業料免除等の制度も変革が予想されますが、日本人学生と外国人留学生の支援枠と対象者選定の条件など、より公平な制度設計が必要だと感じております。

〇湊長博氏

(回答なし)

 〇村中孝史氏

(回答なし)

(質問別)質問4:学生処分への回答

質問4:学生処分

京都⼤学現執⾏部は、2019年9⽉10⽇付で、3名の学⽣を停学(無期)処分としまし た。その内の2名はオープンキャンパス初⽇(2018年8⽉9⽇)に本部構内のクスノキ東 側に設置された⽴看板を撤去する職員の⾏為を妨害したことに加えて、厚⽣課窓⼝及び廊 下で職員の⾏為を妨害したという理由、もう1名は後者の理由に限られます。 この処分は、重すぎる処罰だという意⾒が教員の中に多数あります。実際、教授会での ⻑時間におよぶ審議を経て部局から提出された学⽣の処分案を、学⽣懲戒委員会が軽すぎ るということで⼆度も突き返しました。 このような学⽣処分のあり⽅や、執⾏部と学部の⾃治のあり⽅について、どのようにお 考えですか?

総長候補者の回答(50音順)

〇大嶋正裕氏の回答

学⽣懲戒委員会の委員の一人として、私にも判断の責任があると思います。学生らの主義主張および目的と、行った暴力的な行為自体は別なものであると考えます。度重なる同様の行為に対する反省を促し、行為自体の在り方を考えてもらうため、放学ではなく、停学としたものでした。この学生処分の件だけをとって、学生処分の在り方や執行部の自治の在り方を議論するのは短絡的かと考えます。

〇北野正雄氏

(回答なし)

〇寶馨氏の回答

対話を重んじ、話し合いによって問題の解決を図るという基本方針に立てば、暴力的行為はその対極にあるものとして厳しく諫められなければなりません。しかしながら、厳罰が同様の事案の再発を抑止するという過度に懲罰主義的な対応は、学問の府としての大学においてふさわしいものとは言えないと考えます。また、一般論として、学生の教育に直接の当事者として関わっている部局で審議された懲戒処分案は、学部自治の観点からも尊重されるべきではないかと考えます。

ご指摘の事案では、部局(研究所等は除く)の長全員が参加する学生懲戒委員会(議長は総長)が導いた結論と、当該学生の所属する部局の結論が食い違った結果、2度のやりとりを経て最終的に処分案が決定されたものです。学生懲戒委員会は、それに先立つ補導会議(議長は厚生補導担当の副学長、総長はオブザーバーとして出席)において時間をかけて詳しく審議された内容と、過去の処分事例をも勘案して結論します。結果的に、学生懲戒委員会の処分の量定案と、部局の処分の量定案との間で大きな乖離があったわけではありませんでした。

部局、補導会議、学生懲戒委員会それぞれにおいて慎重に審議を重ねるこのような学生処分の進め方や、最終的な決定に至るまでに要する時間の長さなどについて、改善の余地があるとすれば、今後検討を重ねていく必要があると考えます。

〇時任宣博氏の回答

この質問にある学生処分の件については、処分理由に挙げられている妨害行為だけでなく、そこに至る経緯と当事者間の意見の隔たりが処分案に反映されていると推察致します。その結果、学部(部局)と大学執行部との間で処分案の内容に差が生まれたものと思います。学部の自治と大学全体のガバナンス、マネジメントは、時に互いに相容れない場合もあるかと思いますが、互いの立場を理解し双方が許容可能な解を求める不断の努力が必要だと思います。 

〇湊長博氏

(回答)

 〇村中孝史氏

(回答)

(質問別)質問3:立看版問題への回答

質問3:立看版問題

京都⼤学現執⾏部は、2018年12⽉に「京都⼤学⽴看板規程」を制定し、翌年5⽉にこ の規程を根拠として⽴看板を撤去しました。現執⾏部は、京都市からの「指導」を受けて、 ⽴看板撤去を決めました。これを歓迎する意⾒もあった⼀⽅で、「京都市屋外広告物条例」 の主眼が営利⽬的の広告物の取り締まりである以上、京都市当局と交渉しながら⼤学の外 に向けて置かれる⽴看を存続させるべきだという意⾒や、もっと歩⾏者の安全性と景観に 配慮したものにすれば復活しても良いのではないかという意⾒もメディアで取り上げられ ました。 「京都⼤学⽴看板規程」や⽴看⽂化の存続について、どのようにお考えですか?

総長候補者の回答(50音順)

〇大嶋正裕氏の回答

立て看板の禁止・撤去が、大学の構成員に閉塞感をもたらす原因の一つになっているのだとすれば、今一度議論してもよいと考えます。歩⾏者の安全性への配慮の方法、近隣住民の理解を如何に得るか、大学が京都市の中に作り出す景観とはなにかということも含めて議論すべきと思います。

〇北野正雄氏

(回答なし)

〇寶馨氏の回答

学部時代から京都大学で過ごしてきた身とすれば、立看板のない風景には、綺麗になった印象はあるものの、一抹の寂しさを覚えます。一方で、本問題は、京都市側との再交渉や学内規程との兼ね合いもあるため、容易に解決しない問題であると捉えています。まずは京都市側との再交渉を求めるなかで、双方の妥協点を見い出しつつ、より現実的な範囲で「京都大学立看板規程」の改正に向けて努力していきたいと思います。その際に、学生、教職員、京都大学職員組合、市民の方々との対話を踏まえて、あるべき立看文化の存続について検討していきたいと考えています。

〇時任宣博氏の回答

 立看板問題に関しては、「立看規程」の制定により、条例遵守、景観・安全性の確保の観点から、その規格や設置場所等が定められたこと、また設置責任者や設置許可期間についても大学内の活動として適切なものとなるようにルールが定められたと理解しています。ただ、その後の立看文化等に関する報道等では、本学外構周辺における立看での対外情報発信活動が制限されたのは問題である、という扱いが多かったと思います。立看文化の存続を模索するのであれば、節度を守った形での設置や表現を現規程の下で実行しつつ、不都合な点を解消する意見・提案を大学当局に正当な手段で届けて改善を図る形が良いと思います。

 〇湊長博氏

(回答なし)

 〇村中孝史氏

(回答なし)

 

(質問別)質問2:吉⽥寮裁判への回答

質問2:吉田寮裁判

京都⼤学現執⾏部は2019年4⽉26⽇に吉⽥寮⽣20名を選択して建物明渡請求訴訟を 京都地⽅裁判所に起こしました。また、コロナ禍さなかの2020年3⽉31⽇に新たに25 名を追加提訴しました。まもなく125年周年を迎える京⼤の歴史で、初めて⼤学当局が学 ⽣を裁判に訴えるという事態が起こりました。 第⼀次提訴の直前、2019年2⽉20⽇に吉⽥寮⾃治会は2条件(2015年改修済み⾷堂棟 の利⽤、清掃・点検のための現棟⽴ち⼊り)が認められるならば全寮⽣が新棟に移転する と表明しました。しかし、現執⾏部は、新棟移転を受け⼊れた吉⽥寮⾃治会の意向を検討 せず、教授会や学内委員会でも審議しないまま提訴を決定しました。 この吉⽥寮裁判の今後の対応について、どのようにお考えですか? また、裁判を取り下 げる選択肢についてのお考えもお聞かせください。

総長候補者の回答(50音順)

〇大嶋正裕氏の回答

学生を訴えたことは私にとってもやはり衝撃でした。私が聞いているのは、次のようなことです。⾷堂棟の利⽤、清掃・点検のための現棟立ち入りを認めることは、吉田寮の老朽化に対する寮生の安全性の確保にならない。また、学生以外の者が現棟に居住し続けており、寮生が誰なのかを確認できず、新棟や民間アパートへの移転による合意がどこまで取れているのかが不明であったため、司法の手続きをとったと聞いています。私としては、学生が、自分の命を盾に、吉田寮に立てこもるような状況は、できるだけ速やかに解消すべきと考えます。そのための話し合いのなかで、裁判についても議論されるべきと考えます。

〇北野正雄氏

(回答なし)

〇寶馨氏の回答

吉田寮裁判は、不幸なことに、京都大学における近年の「変化」を象徴する出来事となってしまいました。本裁判によって、告訴の対象とされた方々はもちろん、多くの学生とその家族・関係者、教職員が不安な気持ちを抱かれたことと思います。学内外の信頼を取り戻すためにも、まずは大学が学生を告訴しているという状態を一刻も早く解消し、あらためて当事者との対話を再開する必要があります。そして、これまで様々な形で吉田寮の課題に尽力されてきた学生・教職員の対話の蓄積をふまえて、できるだけ速やかな解決を図りたいと考えています。

〇時任宣博氏の回答

 吉田寮問題にかかる裁判に関しては、提訴(追加提訴も含む)に至る過程で、大学執行部と寮生側で問題解決に対する考え方の違いがあって現状に至ったと推察します。私は本件に関する詳細な情報を持ち合わせておりませんので、本提訴事案にかかる本学の今後の対応について現時点でのコメントは差し控えますが、早期の解決が望ましいことは確かです。

 〇湊長博氏

(回答なし)

 〇村中孝史氏

(回答なし)

(質問別)質問1:学生との対話のチャネルへの回答

質問1:学生との対話のチャネル
京都⼤学現執⾏部は、学⽣担当副学⻑による⽉1回の学⽣向け情報公開連絡会を廃⽌し、 学⽣との少⼈数での話し合いも打ち切るなど、学⽣との対話のチャネルをせばめているよ うに思われます。その結果、当事者の学⽣と事前の意⾒交換を全く⾏わないまま、学⽣の ⼤きな利害が関係する事項についての決定を下すことになっています。これは学⽣の⾃主 性を尊重するという京都⼤学の教育⽅針とも整合しないように⾒えますし、学⽣側の実情 に合わないちぐはぐな判断をしてしまうという弊害も起きているように思われます。 こうした、京都⼤学の学⽣に関する事項の決定のあり⽅、学⽣と対話する姿勢について どのようにお考えでしょうか。

総長候補者の回答(50音順)

 〇大嶋正裕氏の回答

学生との対話は大事にしたいと思います。ただし、昔のような団交的・圧迫的な話し合いの仕方は好みません。現在、特定の学生との情報公開連絡会は廃止しましたが、キャンパスライフの配信や意見箱などを設置し、学生とのチャンネルは新たに作っているほか、学生担当副学長と学生の対話の窓口はまだ絶たれてはいないと聞いております。

〇北野正雄氏

 (回答なし)

〇寶馨氏の回答

過去6年にわたる山極現総長及び執行部の運営に一定の敬意を払いつつも、ご指摘のとおり、教職員や学生との対話が少なくなったのは否めない事実だと思います。この点に関し、大胆な転換が必要です。私は「所信」のなかで、京都大学が世界に開かれた大学として、性、国籍、民族、宗教の違い、障がいの有無に関わらず、すべての構成員にとって多様性が尊重され、生活しやすい環境になるように努めたいと書きました。そのためにも、学生はもちろん、学内の教職員、学外の市民との対話や合意形成を積極的に行います。その一環として、学生との定期的な対話のチャネルを復活させ、信頼関係を築いていくことは、大学として当然であると考えます。

〇時任宣博氏の回答

 大学執行部が学生との対話の機会を狭めているとのご指摘ですが、現在の状況を生み出した背景も含めてその要因をしっかりと検討した上で、本学所属の学生全体に平和な雰囲気での情報公開連絡ができる環境や仕組みを再構築できれば良いと思います。学生に関する事項にも色々な内容、規模のものがある上に、対象を限定するものなどもあるかと思いますので、対話のシステムを構築するにしても、フレキシブルで多様な窓口を用意しなければ機能しないように思います。

〇湊長博氏

 (回答なし)

 〇村中孝史氏

 (回答なし)

(回答者別)時任宣博氏の回答

質問1:学生との対話のチャネル

大学執行部が学生との対話の機会を狭めているとのご指摘ですが、現在の状況を生み出した背景も含めてその要因をしっかりと検討した上で、本学所属の学生全体に平和な雰囲気での情報公開連絡ができる環境や仕組みを再構築できれば良いと思います。学生に関する事項にも色々な内容、規模のものがある上に、対象を限定するものなどもあるかと思いますので、対話のシステムを構築するにしても、フレキシブルで多様な窓口を用意しなければ機能しないように思います。

質問2:吉⽥寮裁判

吉田寮問題にかかる裁判に関しては、提訴(追加提訴も含む)に至る過程で、大学執行部と寮生側で問題解決に対する考え方の違いがあって現状に至ったと推察します。私は本件に関する詳細な情報を持ち合わせておりませんので、本提訴事案にかかる本学の今後の対応について現時点でのコメントは差し控えますが、早期の解決が望ましいことは確かです。

質問3:⽴看板問題

立看板問題に関しては、「立看規程」の制定により、条例遵守、景観・安全性の確保の観点から、その規格や設置場所等が定められたこと、また設置責任者や設置許可期間についても大学内の活動として適切なものとなるようにルールが定められたと理解しています。ただ、その後の立看文化等に関する報道等では、本学外構周辺における立看での対外情報発信活動が制限されたのは問題である、という扱いが多かったと思います。立看文化の存続を模索するのであれば、節度を守った形での設置や表現を現規程の下で実行しつつ、不都合な点を解消する意見・提案を大学当局に正当な手段で届けて改善を図る形が良いと思います。

質問4:学⽣処分

この質問にある学生処分の件については、処分理由に挙げられている妨害行為だけでなく、そこに至る経緯と当事者間の意見の隔たりが処分案に反映されていると推察致します。その結果、学部(部局)と大学執行部との間で処分案の内容に差が生まれたものと思います。学部の自治と大学全体のガバナンス、マネジメントは、時に互いに相容れない場合もあるかと思いますが、互いの立場を理解し双方が許容可能な解を求める不断の努力が必要だと思います。

質問5:修学⽀援問題

大学における修学支援の仕組みが、政府・文部科学省の施策として大きく変革される可能性がありますが、本学での支援制度設計は、現状で真に支援を必要としている学生に適切に対応できるように配慮されるべきであり、政府施策に迎合する形にとらわれないことが重要と思います。また、各種の奨学金や授業料免除等の制度も変革が予想されますが、日本人学生と外国人留学生の支援枠と対象者選定の条件など、より公平な制度設計が必要だと感じております。

質問6:いまの京都⼤学に必要なもの

京都大学は、国内外に誇る総合研究大学として発展しており、その先進性、独創性は、世界的に卓越した知の創造と行動力豊かな有為な人材の輩出につながっています。そして、自由の学風に基づく京都大学独特の雰囲気が、学生、教職員を問わず構成員各自の日々の活動の源になっていると思います。しかし、国立大学法人化後に直面した大学改革、機能強化等の各種政府施策への対応は、ともすれば大学を構成する各部局、教職員、学生の活動を委縮させる状況を生み出し、本学が理想とする大学運営に少なからず負の影響を与えてきたと言わざるを得ません。私は、教職員、学生の皆さんが、本学の一員であることに誇りと自信をもって、その独創性に富んだ活力を最大限発揮できる研究教育環境を整えるべきだと考えています。その結果、多様な学術分野を包含する京都大学が、各部局の特色に配慮しつつ多分野共同体としての教育研究活動を国内外にアピールすることで、世界に冠たる総合大学としてさらに大きく飛躍することができると考えています。

(回答者別)寶馨氏の回答

質問1:学生との対話のチャネル

過去6年にわたる山極現総長及び執行部の運営に一定の敬意を払いつつも、ご指摘のとおり、教職員や学生との対話が少なくなったのは否めない事実だと思います。この点に関し、大胆な転換が必要です。私は「所信」のなかで、京都大学が世界に開かれた大学として、性、国籍、民族、宗教の違い、障がいの有無に関わらず、すべての構成員にとって多様性が尊重され、生活しやすい環境になるように努めたいと書きました。そのためにも、学生はもちろん、学内の教職員、学外の市民との対話や合意形成を積極的に行います。その一環として、学生との定期的な対話のチャネルを復活させ、信頼関係を築いていくことは、大学として当然であると考えます。

質問2:吉⽥寮裁判

吉田寮裁判は、不幸なことに、京都大学における近年の「変化」を象徴する出来事となってしまいました。本裁判によって、告訴の対象とされた方々はもちろん、多くの学生とその家族・関係者、教職員が不安な気持ちを抱かれたことと思います。学内外の信頼を取り戻すためにも、まずは大学が学生を告訴しているという状態を一刻も早く解消し、あらためて当事者との対話を再開する必要があります。そして、これまで様々な形で吉田寮の課題に尽力されてきた学生・教職員の対話の蓄積をふまえて、できるだけ速やかな解決を図りたいと考えています。

質問3:⽴看板問題

学部時代から京都大学で過ごしてきた身とすれば、立看板のない風景には、綺麗になった印象はあるものの、一抹の寂しさを覚えます。一方で、本問題は、京都市側との再交渉や学内規程との兼ね合いもあるため、容易に解決しない問題であると捉えています。まずは京都市側との再交渉を求めるなかで、双方の妥協点を見い出しつつ、より現実的な範囲で「京都大学立看板規程」の改正に向けて努力していきたいと思います。その際に、学生、教職員、京都大学職員組合、市民の方々との対話を踏まえて、あるべき立看文化の存続について検討していきたいと考えています。

質問4:学⽣処分

対話を重んじ、話し合いによって問題の解決を図るという基本方針に立てば、暴力的行為はその対極にあるものとして厳しく諫められなければなりません。しかしながら、厳罰が同様の事案の再発を抑止するという過度に懲罰主義的な対応は、学問の府としての大学においてふさわしいものとは言えないと考えます。また、一般論として、学生の教育に直接の当事者として関わっている部局で審議された懲戒処分案は、学部自治の観点からも尊重されるべきではないかと考えます。

ご指摘の事案では、部局(研究所等は除く)の長全員が参加する学生懲戒委員会(議長は総長)が導いた結論と、当該学生の所属する部局の結論が食い違った結果、2度のやりとりを経て最終的に処分案が決定されたものです。学生懲戒委員会は、それに先立つ補導会議(議長は厚生補導担当の副学長、総長はオブザーバーとして出席)において時間をかけて詳しく審議された内容と、過去の処分事例をも勘案して結論します。結果的に、学生懲戒委員会の処分の量定案と、部局の処分の量定案との間で大きな乖離があったわけではありませんでした。

部局、補導会議、学生懲戒委員会それぞれにおいて慎重に審議を重ねるこのような学生処分の進め方や、最終的な決定に至るまでに要する時間の長さなどについて、改善の余地があるとすれば、今後検討を重ねていく必要があると考えます。

質問5:修学⽀援問題

現時点の本学の財政状況では、修学支援対象となる学生に一定の厚生的条件が課されていることはやむを得ないと考えますが、その条件が、有為の学生が教育を受ける機会を奪われることのないように、できるだけ広く支援をする必要があります。「実務経験のある教員」や「産業界等」出身理事の受け入れを条件とすることは、大学の自治が損なわれる可能性もあり、修学支援とは切り離すべきだと考えます。修学支援をめぐる政府・文科省の方針に対しては、最近の新型コロナウイルスの流行に際しての留学生に対する支援の条件化に山極現総長が反対の意思表示をされたように、是々非々の立場で意見の表明と交渉を行い、京都大学のみならず我が国の学生が等しく教育を受ける権利を行使できるように声をあげていきたいと考えます。

質問6:いまの京都⼤学に必要なもの

一言で言えば、「風」が必要です。現執行部のもとでも、「自由」は謳われてきました。しかし、「風」の方はどうでしょうか。京都大学の「自由の学風」は、「風」であることによって真価を発揮すると考えます。近年、この「風」が弱くなり、かつての“京大らしさ”が失われつつあります。私は、「自由の学風」を学内の隅々まで行き届かせて、風通しのよい京都大学を実現したいと考えています。そのための不可欠な方法が「対話」です。対話のない場所で優れた教育・研究・医療は生まれません。対話を通して様々な立場の方々と理解し合うことは、自己と他者の自由や多様性を尊重し、「自由の学風」をより強くすることにつながります。しかし、私一人では対話もできなければ、新たな「風」を起こすこともできません。ぜひ皆さまのご協力・ご支援を得て、“京大らしさ”を取り戻し、世界に貢献できる進取の京都大学を実現していきたいと考えています。

(回答者別)大嶋正裕氏の回答

質問1:学生との対話のチャネル

学生との対話は大事にしたいと思います。ただし、昔のような団交的・圧迫的な話し合いの仕方は好みません。現在、特定の学生との情報公開連絡会は廃止しましたが、キャンパスライフの配信や意見箱などを設置し、学生とのチャンネルは新たに作っているほか、学生担当副学長と学生の対話の窓口はまだ絶たれてはいないと聞いております。

質問2:吉⽥寮裁判

学生を訴えたことは私にとってもやはり衝撃でした。私が聞いているのは、次のようなことです。⾷堂棟の利⽤、清掃・点検のための現棟立ち入りを認めることは、吉田寮の老朽化に対する寮生の安全性の確保にならない。また、学生以外の者が現棟に居住し続けており、寮生が誰なのかを確認できず、新棟や民間アパートへの移転による合意がどこまで取れているのかが不明であったため、司法の手続きをとったと聞いています。私としては、学生が、自分の命を盾に、吉田寮に立てこもるような状況は、できるだけ速やかに解消すべきと考えます。そのための話し合いのなかで、裁判についても議論されるべきと考えます。

質問3:⽴看板問題

立て看板の禁止・撤去が、大学の構成員に閉塞感をもたらす原因の一つになっているのだとすれば、今一度議論してもよいと考えます。歩⾏者の安全性への配慮の方法、近隣住民の理解を如何に得るか、大学が京都市の中に作り出す景観とはなにかということも含めて議論すべきと思います。

質問4:学⽣処分

学⽣懲戒委員会の委員の一人として、私にも判断の責任があると思います。学生らの主義主張および目的と、行った暴力的な行為自体は別なものであると考えます。度重なる同様の行為に対する反省を促し、行為自体の在り方を考えてもらうため、放学ではなく、停学としたものでした。この学生処分の件だけをとって、学生処分の在り方や執行部の自治の在り方を議論するのは短絡的かと考えます。

質問5:修学⽀援問題

この条件を聞いたとき、修学支援の条件に、なぜ実務経験のある教員の条件ならびに、理事の条件が入るのかが理解できなかった記憶があります。今後、修学支援の条件として、ふさわしくないものが加わった場合について、国大協や国立大学の各種の集まりで議論し、政府や文科省に物申す必要があると思います。一方で、大学としては、一部取り組みは始まっていますが、政府からの財源だけに頼らず、困窮する学生にしっかりと修学支援していくさまざまなプログラムを作り運用していくべきと考えます。

質問6:いまの京都⼤学に必要なもの

京都大学に入学したとき、あるいは京都大学で働き始めたときに思い描いていた大学の未来と何か違う、昔に比べて文科省等の外部から押し付けられたものに従わざるを得ない状況が続いているからだと考えます。昔はよかったと嘆いていても仕方ありません。今の状況を鑑みて、理想を目指して最善を目指し、前に進まないといけないと考えます。何もしないのは退化です。退化でも単なる変化でもなく、進化しないといけないと思います。
大学の進化は、皆の協力が必要です。そのためには対話と理解が必要だと考えます。